抵抗溶接の現状と課題
| 1.はじめに | |
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今、新たにマイクロ抵抗溶接が見直されています。品質マネージメント規格や環境マネージメントシステムの認証取得をされる企業が増えてきました。特に製造業界においては環境問題への対応が、ますます重要な案件として取り上げられています。電気的な接合工法として、はんだ付けを主な手段として採用してきた業界では、鉛法規制への対策を決めなければならない時期になっています。こうした中で、環境に優しい接合工法として、マイクロ抵抗溶接が見直されています。 マイクロ抵抗溶接とは、接合する金属どうしに一定の圧力を加えながら決められた電流を流し、主に被溶接物間の接触抵抗発熱を利用して接合する技術です。したがってろう材や溶接棒などの消耗品は不要です。また数ボルトの電圧による溶接のため、作業者への危険はなく、熱、けむり、光などをほとんど生じないため、作業環境はいたってクリーンです。また、このマイクロ抵抗溶接は、他の工法に比べ、品質の安定性、コストパフォーマンスの優位性、操作や保守の簡易さから、多くの省力化、自動化装置に有効と認められてきました。 写真1は、リン青銅板に、銅撚り線を溶接した個所の断面顕微鏡写真です。数十年前よりこうした部品は、マイクロ抵抗溶接を採用した自動溶接機で組立てられ始めました。ねじでとめるわけでも、はんだで付けられているわけでもありません。素材自身の抵抗、素材間の接触抵抗による発熱と圧力で溶接されています。自動的に線材と端子が供給され、毎分100以上の数で、溶接組立が行われています。 ![]() 「写真1 リン青銅板0.15mmと銅撚り線1.25mm2の溶接断面拡大写真」 |
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| 2.マイクロ抵抗溶接について | |
マイクロ抵抗溶接は、異材質の金属どうしを電気的に接合する工法として、主に電子部品の接合組立に用いられてきました。通常の抵抗溶接との違いは、接触抵抗をフルに利用する接合法といえます。そのため、熱容量が異なったり、融点が異なる材質を接合することが可能です。写真2は、SUS304の0.08mmとNiCr合金0.25mmを重ね抵抗溶接後の断面の写真ですが、接合部の界面を中心とした扁平なナゲットが作られています。接触抵抗をうまく利用した一例といえます。![]() 「写真2 SUS304とNiの接合部の断面写真」 ![]() 「写真3 マイクロ抵抗溶接装置」 ![]() 「図1 シリーズ通電」 ![]() 「写真4 接合個所断面写真」 |
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| 3.マイクロ抵抗溶接装置構成機器と各々の役割 | |
| マイクロ抵抗溶接装置の構成は、溶接電源部と加圧機構部に大きく分けられます。 | |
| 3-1.電源部 | |
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溶接電源部は、溶接エネルギの制御供給を行います。ただし、通常の抵抗溶接と異なり、通電時間を極短時間で管理する必要性と、電流供給の安定性が強く求められることから、インバータ式制御、もしくはトランジスタ式制御の電源が多用されています。 先ほどの写真3はトランジスタ式制御溶接電源を使用しています。電流/電圧のフィードバックをもとに、トランジスタ素子によるスイッチング制御技術で、任意の出力波形を作り出すことができます。フィードバックはマイクロ秒単位で行われるため、溶接エネルギを短時間でかつスムーズに立ち上げることが可能です。したがって、この電源は極短時間での、安定したエネルギ供給源といえます。 ![]() 「写真5 トランジスタ式制御溶接電源」 |
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| 3-2.溶接機構部 | |
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溶接機構部の主な機能は次の通りです。1)被溶接物の位置決め 2)電流経路の特定 3)接触抵抗を安定させ発熱量を制御すること 4)圧力を加えることで溶け出しを押え込むこと 5)被溶接物表面で発生した熱を逃し、溶けた金属を瞬時に冷却凝固させること、等です。 溶接機構部を構造的に見ると、電流と加圧を伝達するための溶接電極、電極ホルダ部と、加圧力を制御するばねを内蔵した加圧力設定検出機能を持った追従部、ついで駆動動力部に分けて考えられます。図2はエア駆動方式の参考図で、Aが電極、Bが電極ホルダ、Cは加圧力を伝達するシャフト、Dが加圧ばね、Eが圧力設定ツマミ、Fが加圧検出センサです。Gは駆動用のエア・シリンダです。駆動方式としては、作業者が足で踏み込んだり、手で握るといった人力のものと、エアやモータ駆動の方式が一般的です。 ![]() 「図2 エア式溶接機構部」 |
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| 3-2-1.溶接電極と電極ホルダ | |
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電極の基本的な役割は、電流密度を一定に保ちながら、電流を溶接点に集中させ発熱をさせることと、一定の加圧力で溶融個所を保持しながら通電終了後の冷却凝固を促進することで、現在多くのマイクロ抵抗溶接では、被溶接物側に電流を集中させるための突起物(プロジェクション)が施されますので、電極先端はフラットのままでも、電流の集中による発熱が可能で、溶接は問題なく行われます。抵抗溶接の問題点である、溶接電極の保守管理が容易になったといえます。 電極ホルダは電源からの溶接ケーブルが接続され、かつ電極を保持して、溶接電流を流す役割があります。また、溶接部で発生する熱を拡散冷却させる役割もあります。よって、材質的には抵抗値の低いもの、熱伝導率が高いもので、かつ、高温時の機械的強度が要求されます。放熱性が良いものでかつ、繰り返し電極交換を行ったとしても、機械的強度を満足させるものでなければなりません。極短時間のマイクロ抵抗溶接では真鍮が用いられていますが、自動機仕様の場合や電極発熱型での抵抗溶接の場合、クロム銅やベリリウム銅が使用されます。なお、機械的剛性や放熱性を考えすぎて、このホルダ質量を大きくしすぎると、溶接品質に問題を生じます。 通常、一定の加圧が加えられた後に、電極を通して電流が流れ始め溶接現象が進行していくのですが、この加圧している間に、被溶接物は瞬間的な膨張と急激な収縮現象を起こしています。マイクロ抵抗溶接の場合、ミリ秒単位でこの現象が進行し、この間溶接電極が被溶接物と即応して動作しない場合に、溶接強度不足や爆飛を発生させることとなります。このため、溶接電極を含む可動部の即応性(追従性)が重要な溶接機構部製作時のポイントになります。先ほど述べましたホルダ部の質量や2次ケーブルの質量もそうですが、その質量をいかに小さくしておくか、可動部に影響を与えないですむかが、問題となるのです。 |
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| 3-2-2.加圧力の設定と検出 | |
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駆動方法が、人力、エア、モータを問わず、マイクロ抵抗溶接ではこの即応性改善のために、溶接ヘッド可動部にバネが介在されます。なお、加圧力の加え方として、2通りの方法が取られています。ひとつは、一定のバネ圧が一定時間加えられている間に通電を行う方式(定加圧方式)。もう一方に、圧力を上昇させて行く間の途中で通電を開始させる方式(タンジェンシャル加圧方式)があります。後者は、やはり即応性や溶接強度を目指した方法ですが、通電開始時の圧力や終了時の圧力の管理が難しく、溶接強度の不安定要因となりやすいため、前者を採用している場合が多いようです。 溶接品質的には、後者が理想です。接触抵抗を有効に引き出すため、溶接電極があたる瞬間は0の加重で加圧が始まり、設定された値に達したところで通電を開始、所定の時間まで圧力を増加させて、溶融凝固させることが理想です。特に、変位量の大きなクロスワイヤ溶接やプロジェクション溶接では、有効です。安定した推力と確実な加圧センサを備えた溶接ヘッドが近年望まれてきました。写真6は加圧力センサを搭載したエア駆動式溶接機構部と加圧力モニタです。写真7はモータ駆動式溶接機構部です。 ![]() 「写真6 加圧力センサ内蔵溶接機構部とモニタ」 ![]() 「写真7 モータ駆動溶接機構部」 なお、即応性については次式を参考にして下さい。
定加圧方式の場合、追従スピードを上げるためには、質量m(摩擦係数も考慮のこと)を小さくするしかありません。
S=(1/2)×(F/M)×gt2 F:加圧力、m:質量、g:重力加速度、t:時間 |
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| 4.マイクロ抵抗溶接部の品質管理 | |
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これまでマイクロ抵抗溶接についての概要を述べてきましたが、ここでは現在の溶接品質管理の実際について触れます。従来は、マニュアルによる作業管理と溶接時の電流データで、品質を得ようとしてきました。すなわち、被溶接物の受入検査に始まり、マイクロ抵抗溶接機器の日常管理(電源の設定値確認から溶接機構部の調整確認)、溶接後の品物の抜き取り品質検査というプロセス管理がその流れで、始業時、終業時および抜き取りでのデータは記録として残せますが、毎回のデータとしては測定された電流値のみが残るものでした。 被溶接物のバラツキや、溶接電極の変化、電源電圧変化、加圧力変化等に対するフィードバック機能を持ったマイクロ抵抗溶接装置が理想でしょうが、あまりにも外乱要素が多すぎるため、また、マイクロ抵抗溶接での制約条件(ごく短時間での溶接)により、現在は実現されておりません。よって、現在の管理方式の流れとして、データとなるもの、価格的実現性のあるものを、管理していくことにより、100%は不可能としても、99.999・・%を目指す実現可能な品質保証体制の確立へと動き始めました。 前項で述べましたように、マイクロ抵抗溶接電源は、電流制御においてはフィードバック機能を持たせたもので、かつ、電流値や通電時間をモニタリングする機能を持ち始めましたし、加圧機構部においても加圧力モニタを装備しモニタリングが可能となっています。こうした装置を用いて溶接を行った場合に、その発生熱量なり、変位量を検出することで実際の溶接と相関性が取れるのではないかとの考えが出てきており、重要保安部品でのマイクロ抵抗溶接では実施され始めています。 写真8は変位モニタです。毎回ごとの溶接前と溶接後の変位量を測定し、上下限設定にての良否判定が行われます。なお、このモニタを使うことで、被溶接物の厚みを検出し、良品厚み範囲内かどうかの測定も、行なうことができます。(図3)変位センサは、溶接加圧機構部の中に搭載されています。用いられているセンサの最大分解能は、0.2ミクロンで、モニタ表示はミクロン単位で表示されます。 ![]() 「写真8 変位モニタ」 ![]() 「図3 変位モニタ動作フロー」 |
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| 5.マイクロ抵抗溶接の課題 | |
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ここまで、一般的なマイクロ抵抗溶接工法についての概要を紹介してきましたが、マイクロ抵抗溶接装置を使用して、一部異なった接合工法が行われ始めています。被溶接物の間に極薄い金属箔を挿入し、装置での加圧通電を行なう短時間高加圧での拡散接合や、ろう材を挿入しての抵抗ブレージング、被覆ワイヤーの端子への接続を目的とするヒュージング等、新しい工法が提案されてきています。いずれも、マイクロ抵抗溶接の考え方と装置を用いることで、従来困難とされていた素材の接合を、可能としています。当然にマイクロ抵抗溶接の特性である、価格的なメリットや省力化の容易さを、持ち合わせた工法です。 最近の実施例について、いくつか紹介します。純銅のかたまり(8mmφで厚みが5mm)に銅線(1mmφ)を突合せで接合する方法として、接合面にニッケル箔(50μm)をはさんで加圧通電し、実用強度及び電気特性を満足する溶接結果が得られました。写真9はその接合断面図です。被溶接物の間に高融点の金属をはさんだ場合の抵抗溶接ですが、金属間での接触抵抗を増やすことで発熱を促進し、銅とニッケルの拡散での接合と考えられます。この場合は、接合界面にニッケルの箔がそのまま残っています。仮に、ニッケルめっきの場合には、接合を行うことは非常に困難となります。また、銅の表面に錫めっきを施した場合には、接合が可能となります。こちらの場合は、液相拡散接合が行われ接合が容易になると思われます。写真10が断面写真ですが、界面にはほとんど錫が見えません。両者をEPMAで観察したものが、写真11です。 (物質に電子を当てると散乱、反射、透過と言う現象がおこります。その中で物質から二次電子、反射電子、連続エックス線、固有エックス線、蛍光エックス線等が放出されます。EPMA電子線プローブマイクロアナライザーは、この中の固有エックス線を検出する事によりその物質の元素を定性&定量するものです。) ![]() 「写真9 銅と銅線の突合溶接断面図(Niインサート)」 ![]() 「写真10 銅と銅線の突合溶接断面図(錫メッキ)」 ![]() 「写真11 NiインサートのEPMA写真(銅イメージ)」 ![]() 「写真12 錫メッキ黄銅端子0.4mmtでの被覆銅線0.12mmφヒュージング断面写真」 マイクロ抵抗溶接機を利用した接合工法として、抵抗ブレージング工法もあります。チタンの接合に関し、被接合物の間にチタン−ニッケル−銅の箔を介在させて接合する方法です。現在、この工法は眼鏡フレームの組立で利用されています。この接合についての研究を紹介しましょう。電流、加圧、変位、温度を測定し、高速度カメラで観測を行い、その溶接個所を顕微鏡やEPMAでの解析を行っています。これら、解析や研究目的は、電流や時間等の設定を必要としないファジイなマイクロ接合装置の開発にあります。抵抗溶接機でも設定フリーの装置が現れ始めましたが、マイクロ溶接でもこの開発が大きな課題となっています。 ここまで述べてきましたように、マイクロ抵抗溶接機器の進化、モニタリング装置の普及に伴い、その信頼性は高いものになりつつあります。しかし、単純に装置だけに頼って良いのかという疑問があります。マイクロ接合工法の理解をもとに金属の特性を考慮した被溶接物の見直しが必要と思われます。前述のインサートメタルという考え方やメッキを施すことでの接合性改善を考慮する必要等があるのではないでしょうか。こうした被溶接物の検討をも追及することで、更なるマイクロ抵抗溶接の品質向上や、新たな接合技術開発が可能となって行くと思います。また各種測定検査装置(高速度カメラやSEM、EPMA等についても簡単に利用できる時代を迎えていると感じられますので、今後、これらを活用することで、マイクロ抵抗溶接がさらに定量的な解明を伴った技術として確立され、物作りのコア技術の一つとして、ますます活用されればと考えます。 なお、今回も、資料作成等東海大学工学部有賀研究室には大変お世話になっています。こちらでは、電子顕微鏡をはじめEPMA解析装置、強度測定装置等が取り揃えられ、私達では簡単測定できない内容を、可能にしていただいています。今後も、このような研究施設とのむすびつきを築きながら、データに基づいた新たな接合装置を開発して行きたいと考えています。 |
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